大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(ラ)813号 決定 1978年10月19日

抗告人

冬野花子

右代理人

生田目財寿助

相手方

冬野二郎

外二名

主文

原審判を取消す。

本件を静岡家庭裁判所富士支部に差し戻す。

理由

<前略>

本件抗告の理由は要するに、(一)被相続人冬野一夫の遺産には、原審添付物件目録記載の建物の外その敷地であり相手方冬野二郎が所有権を取得したとして所有権移転登記のなされている静岡市富士市吉原四丁目一二六番七宅地四九五八平方米(本件土地という。)が存するに拘らず原審判はこの点について何らの判断を示さず、(二)又抗告人は被相続人一夫が右遺産を形成するについて多大の特別寄与をなしているに拘らず、原審判はこの点について何らの考慮を払わない各違法があるというものである。

よつて判断するに、一件記録によれば

「本件土地には、相手方冬野二郎が昭和三七年七月一三日吉原市より払下げを受けたことを原因として同月一七日相手方二郎名義の所有権移転登記がなされている。

しかし、その所有権の帰属について相手方二郎と被相続人一夫、その死亡後は抗告人との間で争があり、相手方二郎は、本件土地は自己の所有であると主張し、被相続人一夫を相手方とし、その死亡後は抗告人を相手方として前記建物収去、本件土地明渡を求める調停を申立てたが、被相続人一夫、抗告人らは、右土地は元来被相続人一夫が吉原市よりの払下げを希望していた土地であるが、資金が不足であつたので相手方二郎に依頼し、同人が先ず右払下げを受け、後日被相続人一夫が相手方二郎よりこれを買受ける約束になつていたものであるところ、被相続人一夫は相手方二郎が右払下げを受けその旨の所有権移転登記を受けた後同人に右払下代金相当額の金員を分割して支払いもつてこれを買受けたものであるから、その所有権は被相続人一夫が取得したと主張し、相手方二郎はこれを争つたため右調停はいずれも不成立に終つた。」ことが認められる。

ところで、本件土地の所有権の帰属については、

一件記録によるも右両者の主張のいずれが正しいかは俄かに判断することはできないものであるが、本件土地の登記済証を現在抗告人が所持していること、抗告人提出の給料明細書二通、河野富一弁護士作成のメモ、小沢荘吾作成の上申書よりすると、抗告人の右主張も直ちに不当なものとして排斥することはできないものである。

そして一件記録によれば、原審においては本件土地の所有権の帰属について何ら調査されていないことが認められ、又原審判もこの点について判断を加えず、被相続人一夫の遺産は前記建物一棟のみであると判断しているのであるから、原審判には右の点について審理を尽くさなかつた違法があるものである。

次に抗告人の特別寄与の主張についても一件記録、殊に抗告人から提出された滝田三千子作成の嘆願書、井出花枝作成の書面、小沢荘吾作成の上申書によるとこれを一概に否定することはできないものである。

そして一件記録によれば原審においてはこの点について何らの調査がなされなかつたことが認められ、それにも拘わらず原審判は特別寄与の存在を否定しているのであるから、原審判には右の点について審理を尽くなさなかつた違法があるものである。

前記各違法はいずれも審判の結果に影響を及ぼすおそれのあるものであることは明らかである。

尤も、原審において抗告人は重なる裁判所の呼出にも応ぜず、かつ何らの主張、立証もしなかつたので、原審が他の当事者の主張のみを基にして審理、判断していることは己むを得ないといわざるを得ないが、当審において抗告人より初めて主張、立証がなされ、その主張及び立証が直ちに排斥できないものであるときは、抗告人の原審における態度に遺憾なものがあつたとしても、事実につき職権探知の原則の支配下にある家事審判手続においてはなお審理を尽くさねばならないことに変りはない。

よつて、抗告を理由ありと認め原審判を取消して本件を原審に差戻すべく、家事審判規則一九条一項に従い主文のとおり決定する。

(吉岡進 前田亦夫 上杉晴一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例